婚活をしていると、
ふとした瞬間に「自分をよく見せたい」という気持ちが顔を出す。

プロフィールに書く職業、年収、仕事内容。
そこに、ほんの少しの“盛り”を加えたくなることがある。
嘘とまではいかなくても、
「正社員」ではないけれどそう書いてしまう。
「派遣」では印象が悪い気がして、「事務」とぼかしてしまう。

そんな小さな違いが、
やがて“自分を演じる婚活”へと変わっていく。

婚活で職業に嘘をつく人は、
嘘をつきたいわけではない。
“誠実な自分”でありたいがゆえに、 誤魔化さなければ生き残れない気がしているのだ。


婚活の世界は、条件が見える世界だ。
職業、年収、学歴、家族構成。
そこに数字や肩書きが並び、
人の温度が見えにくくなる。

だからこそ、
「条件が悪い自分は、そもそも土俵に立てないのでは」と思ってしまう。

本当の自分を出したら、
誰にも選ばれないんじゃないか。
そう感じたとき、人は無意識に“虚飾”へ手を伸ばす。

けれど、婚活での嘘は、
誰かを騙すためではなく、
“自分を守るため”に始まるのだ。


「職業に嘘をついたところで、誰も傷つかない」
そう思う人もいるだろう。

たしかに、最初はそうかもしれない。
でも、その嘘が長く続くほど、
人は“素の自分”でいられなくなる。

相手と会話をしているとき、
「バレないようにしなきゃ」と意識が働く。
話題が仕事に及ぶと、
心が少しざわつく。

そして、心のどこかでこう思ってしまう。
「もし本当のことを知ったら、この人は離れてしまうかも」

その不安は、相手との間に小さな距離をつくる。
やがて、それは“信頼の欠片”を少しずつ削っていく。


婚活で職業の嘘をついてしまう背景には、
「評価されたい」という願いがある。
でも、恋愛も結婚も、
評価ではなく“共鳴”でつながるものだ。

評価されようとするほど、
“他人の物差し”で自分を測るようになってしまう。

「安定した職がないと不安に思われる」
「正社員じゃないと、相手の親に反対されるかもしれない」
そうした恐れは、現実的でありながら、
“幸せの中心”を他人に明け渡してしまう行為でもある。


嘘をつかなくても、
人は誠実に生きられる。

婚活の場で本当のことを伝えるのは勇気がいるけれど、
「正直に言ってくれてありがとう」と感じる人は必ずいる。

たとえば、こう伝えるだけでいい。

「派遣で働いていますが、自分のペースで仕事と向き合っています」
「今は非正規ですが、仕事は好きで、丁寧に取り組むことを大切にしています」

この言葉の中にあるのは、
“自分の人生を引き受けている姿勢”だ。
その誠実さは、どんな肩書きよりも強い印象を残す。

婚活で選ばれる人とは、
条件が整った人ではなく、
“自分を隠さない勇気”を持つ人なのだ。


ある女性の話を思い出す。

彼女は派遣社員として働いていたが、
婚活アプリでは“事務職(正社員)”と書いていた。

理由は簡単だった。
「派遣」と書くと、誰からもメッセージが来なかったから。

でも、ある男性と何度かやり取りを重ね、
「この人には正直に話したい」と思える瞬間があった。
勇気を出して、職業のことを打ち明けた。

男性は少し黙った後、こう言った。

「ありがとう。嘘をつかれるより、
正直に話してもらえた方が、ずっと信頼できる。」

その言葉に、彼女は涙が出たという。
“選ばれる”とは、
“条件を満たすこと”ではなく、
“信頼を築けること”なのだと気づいた。


婚活で職業に嘘をつく人は、
“相手を信じきれていない人”でもある。

もし本当の自分を話しても、
「それでも大丈夫」と受け止めてくれる人が
きっといると信じられたなら、
人は嘘をつかなくなる。

誠実さとは、完璧であることではなく、
“恐れながらも正直でいること”だ。

その姿勢がある人ほど、
婚活という現実の中で、
最終的に“信頼を得る側”になる。


婚活で「嘘」をつく人は、
“悪い人”ではない。
ただ、自分の弱さに怯えているだけだ。

けれど、
自分を偽って得た安心は、
必ずどこかで崩れる。

そして、自分を隠さずに差し出した誠実さは、
必ずどこかで報われる。

嘘のない関係は、
不安を誤魔化さない関係でもある。
それは決して楽ではないけれど、
“本当の意味での幸せ”は、
その土台の上にしか築けない。


婚活において、職業の“肩書き”はひとつの情報でしかない。
けれど、誠実さは“人間の本質”そのものだ。

もし今、
「本当のことを言ったら引かれるかも」と思っているなら、
それは“あなたが誰を信じられるか”を見極めるチャンスでもある。

嘘をついてつながる縁より、
正直に話して離れていく縁のほうが、
ずっと誠実だ。

婚活で最も大切なのは、
“嘘をつかずにいられる相手”を見つけること。

なぜなら、
その人となら、
これからの人生を安心して語り合えるから。