婚活をしていると、
「タイプじゃないけど、悪い人ではないんだよね」
そんな言葉をよく聞く。
会話も弾むし、誠実そう。
でも、心が動かない。
「この人、いい人なんだけど……」
その“けど”が、どうしても消えない。
恋愛の始まりには、
どうしても“ときめき”を求めてしまう。
でも、婚活の場では、
“ときめき”より“現実”が重くのしかかる。
そして、その間で揺れる。
「好きになれないのに結婚していいの?」
「タイプじゃない人と幸せになれるの?」
この問いに、正解はない。
でも、そこにこそ婚活の本質がある。
まず、考えたいのは、
“タイプ”という言葉の正体だ。
「タイプ」というのは、
過去の経験と印象の積み重ねからできている。
つまり、“自分の記憶の中の理想像”。
たとえば、
明るくてリーダーシップがある人。
包容力があって、話を聞いてくれる人。
笑顔が素敵で、センスがいい人。
でもそれは、
「かつて心惹かれた人の共通点」であって、
「自分を幸せにする人の条件」ではない。
婚活でうまくいかない理由の一つは、
“惹かれる相手”と“合う相手”を混同していることだ。
惹かれる人は、
自分の中の「足りないもの」を刺激してくれる。
たとえば、自分にない強さや自由さ、行動力。
だから惹かれる。
でも、長く一緒にいると、
その“刺激”が“違和感”に変わることがある。
「いつも自分の意見が通らない」
「一緒にいて疲れる」
「安心できない」
それは、
“タイプ”として惹かれた部分が、
“日常”では摩擦を生む部分に変わるからだ。
婚活で出会う「タイプじゃない人」は、
一見地味に見えるかもしれない。
でも、よく見れば、
“刺激”の代わりに“安定”を持っている人だ。
会話が穏やかで、ペースが合う。
意見の違いを受け止めてくれる。
特別なときめきはないけれど、
不思議と「この人となら落ち着ける」と思える瞬間がある。
婚活において、
“落ち着ける人”は、最も大切な相性のサインだ。
恋愛ではドキドキが始まりをつくるけれど、
結婚では“安心できる沈黙”が関係を支える。
タイプじゃない人を前にしたとき、
「恋愛の温度で人を測る」癖が出てしまう。
心が動かない=合わない
という思い込み。
でも、婚活の“幸せの温度”は、
もっと静かで、ゆっくりしたものだ。
初対面で感じる熱ではなく、
何度か会ううちに、
「この人といると呼吸が楽になる」
そんな感覚が生まれるかどうか。
それこそが、“本当の相性”だ。
婚活の現場では、
タイプじゃない相手を「違う」と切り捨ててしまう人が多い。
でも、それは“可能性”を閉ざす行為でもある。
タイプじゃない相手と向き合う時間は、
“自分の偏り”を知る時間でもある。
たとえば、
「私はこういうタイプが好き」という思い込みが、
実は“安心できない恋愛のパターン”だったりする。
「なぜいつも同じタイプに惹かれて、同じように傷つくのか」
その繰り返しの答えは、
“タイプじゃない人”との出会いの中にある。
ある女性の話がある。
彼女は長い間、
背が高くてリーダー気質の男性に惹かれてきた。
でも、いつも関係が長く続かない。
婚活で出会ったある男性は、
彼女の“タイプ”とはまるで違った。
おとなしくて、会話も淡々としている。
初めは「ないな」と思ったという。
それでも何度か会ううちに、
彼が小さなことを丁寧に気づいてくれること、
感情の波が少なく、穏やかであることに
少しずつ心が緩んでいった。
数ヶ月後、
「最初はタイプじゃなかったけど、今は手放せない存在です」
そう笑って言った彼女の表情は、
恋に浮かれていた頃よりも、ずっと穏やかだった。
婚活において“タイプじゃない人”と出会うのは、
運が悪いことではない。
むしろ、それは“自分を広げるチャンス”だ。
タイプというのは、
“過去の自分”が選んだ好み。
でも、結婚は“これからの自分”と歩く選択。
だからこそ、
タイプに合うかどうかより、
「この人となら、自分の素が出せるかどうか」
そこに目を向けてみてほしい。
婚活で必要なのは、
理想を削ることではなく、
“安心できる関係の心地よさ”を知ること。
タイプじゃない人に出会ったとき、
少しだけ勇気を出してみてほしい。
恋愛のテンプレートを超えた先に、
“静かな幸福”が待っていることがある。
それは、
ときめきの火花ではなく、
日々の暮らしの中でじんわりと灯る明かりのようなもの。
その明かりを見つけた人から、
婚活の終わりが近づいていく。