「婚活でペットを飼っていると、不利になりますよ」
結婚相談所のカウンセラーが、柔らかい笑顔のままそう言ったとき、胸の奥が少しざらりとした。

その言葉は、まるで“あなたの愛は少し偏っている”と告げられたように響いたのだ。

私の部屋には、小さな犬がいる。
十年前、仕事に追われていた頃に迎えた命だ。
彼女はいつも、私の“帰る場所”の象徴だった。

それなのに、その存在が「婚活に不利」だなんて――。
理屈ではわかる。動物アレルギーの人もいるし、生活の制約も増える。

だけど、心のどこかで小さく問いかけた。
「どうして“愛していること”が、不利になるんだろう」と。


婚活の場で「ペットを飼っている女性」は、しばしば“覚悟が足りない”“自由を手放せない”と見なされる。

それは、家庭を築くためには「自分の生活を調整できる柔軟さ」が求められるからだろう。

確かに、週末の旅行も、急な引っ越しも、ペットがいれば簡単ではない。
だから“ペットがいる=新しい生活を受け入れにくい”というイメージがついてしまう。

けれども、本当にそうだろうか。

ペットを育てている人ほど、相手を思いやる生活リズムを知っている。
誰かのために起き、誰かのために帰る。

小さな命のために時間を使う日々は、“他者を中心に生きる練習”のようなものだ。
その経験は、結婚生活の中でも、確かに生きていく。
ただ、それが理解されにくいだけだ。


少し前に、同じように猫を飼っている友人が言っていた。
「婚活の相手に“猫と私、どっちが大事?”って聞かれたとき、心が冷めた」

その彼は、彼女の生活を“制限”として見ていた。

でも、彼女にとって猫は、孤独な夜を支えてきた相棒であり、心のバランスを保つ存在だった。
それを「手放せるか」と問われた瞬間、彼女は自分が“愛されていない”ことに気づいたという。

恋愛とは、誰かを選ぶことでもあるけれど、
その前に「相手の選んできた人生」を尊重できるかどうかが、根っこの愛だと思う。

ペットを飼うという選択には、その人の価値観や生き方の軸が滲む。
そこを軽んじる相手とは、たとえ結婚しても、どこかで噛み合わなくなるのかもしれない。


一方で、ペットを理由に恋愛を遠ざけてしまうケースもある。

「この子がいるから、もう一緒に暮らせないかも」
「動物が苦手な人とは、たぶん無理」

そうやって、出会いの前に“線”を引いてしまう。

けれど、ペットの存在は“壁”ではなく、“鏡”なのだと思う。

誰かと生きることへの怖れ、依存への抵抗、自由を守りたい気持ち――
そうした本音を、ペットという存在がそっと映し出してくれる。

だからこそ、「ペットがいるから不利」ではなく、
「ペットがいることで、自分の心の輪郭が見える」と考えてみてほしい。

婚活の過程は、他人との相性を探す時間であると同時に、
自分の“愛し方”を見つめ直す旅でもある。

ペットを通して、あなたはすでに「誰かと共に生きる」ことの現実を知っている。
それは、決して不利ではない。
むしろ、愛の土台をすでに持っているということなのだ。


恋愛とは、相手を自分の生活に迎え入れること。
結婚とは、お互いの生活を一つに溶かしていくこと。

そのときに必要なのは、“ゼロから始められる人”よりも、
“すでに誰かを大切にしてきた人”だと思う。

ペットを愛してきた人は、
「思い通りにならない存在」と共に生きる柔軟さを知っている。

「世話が大変でも、今日も帰る理由がある」という幸せを知っている。

そして何より、「愛することに見返りを求めない強さ」を持っている。
それは、恋愛において最も深い資質だ。

だから、“不利”と言われたら、静かに微笑んでいればいい。
あなたの中にあるその優しさや覚悟は、
まだ出会っていない誰かが、きっと必要としているものだから。


もし今、ペットと暮らしながら婚活に疲れているなら、
「愛を守りながら愛を探している自分」を誇ってほしい。

それは矛盾ではなく、人としての成熟の証だ。

たとえ遠回りに見えても、
“誰かを愛する”という根っこの部分で共鳴できる人に出会えたなら、
その関係は静かに、でも確かに、長く続いていく。

ペットがいるあなたは、不利ではない。
むしろ、愛を知る準備ができている人だ。

そして、真実のパートナーとは、
その愛を一緒に育てていける人のことなのだ。