婚活をしていると、
「どんな仕事をしているんですか?」という質問は、
避けて通れないものだ。
初対面の会話でよく出るこの質問。
軽い雑談のように聞こえるけれど、
婚活の場では、相手を“測るための情報”として使われてしまうこともある。
だからこそ、
正直に答えるのが怖くなる。
「仕事のせいで、印象が変わるかもしれない」
「本当の自分を知って、離れていく人がいるかもしれない」
そんな不安から、
“職業を少しぼかして伝える”――。
それは、誰にでも一度はよぎる防衛反応だ。
でも、
それは本当に“隠すこと”なのだろうか。
婚活の世界では、
職業は“スペック”のひとつとして扱われる。
「年収」「勤務先」「職種」。
どれも人となりを知る手がかりではあるけれど、
その数字や肩書きが、
人の価値を表しているわけではない。
にもかかわらず、
プロフィール欄の“職業”という一行が、
まるで“生き方の格付け”のように扱われてしまう現実がある。
医師、看護師、公務員、会社員、派遣社員、自営業、フリーター。
その言葉の響きだけで、
相手の“人生の重さ”を勝手に想像してしまう。
だから、
職業を隠したくなるのは、
自分を偽りたいからではなく、
“本当の自分を見てもらいたいから”なのだ。
たとえば、
「派遣社員です」と言った途端、
相手の表情が少し曇るのを見たことがある人もいるだろう。
たとえば、
「看護師です」と言った瞬間、
「夜勤あるんですか?大変そうですね」と、
決まり文句のような反応をされた経験もあるかもしれない。
それは、悪気のない言葉かもしれない。
でも、
その一言で心が少し冷えることもある。
「仕事の内容じゃなくて、肩書きだけで判断された」
そう感じると、
もう一歩踏み込んで話す勇気が消えてしまう。
だから、“隠す”という選択をする。
それは、相手を騙すためではなく、
“自分の心を雑に扱われたくない”という静かな防衛。
婚活で大切なのは、
“何を話すか”よりも、“いつ話すか”だ。
まだ信頼が生まれていない段階で、
自分のすべてを差し出す必要はない。
職業を曖昧にすることは、
嘘ではなく、“タイミングの見極め”でもある。
たとえば、
「今は事務職をしています」
「会社で企画系の仕事をしています」
それくらいの言い方で十分。
相手があなたを“肩書き”ではなく“人柄”で見ようとしているか、
それを見極めてから、
本当のことを話せばいい。
誠実さとは、“全てを早く開示すること”ではない。
“信頼を育てながら、少しずつ心を開いていくこと”。
それが、
長く続く関係を築く上で、何よりも大切な誠実さだ。
ある女性が、
婚活で「職業を隠していた」と打ち明けてくれたことがある。
彼女はフリーランスで仕事をしていたが、
相手に“安定していない人”と思われるのが怖くて、
「会社員です」と答えていたという。
「嘘をついてるみたいで、ずっと苦しかったんです」
そう語る彼女の目は、少し曇っていた。
でも、彼女の話を聞くうちに思った。
それは“偽り”ではなく、“守り”だった。
フリーランスという働き方は、
自由である反面、社会的な理解がまだ浅い。
不安定というラベルを貼られることもある。
彼女は、自分を理解してくれる人と出会うために、
まず「心の安全地帯」をつくりたかったのだ。
だから、
“隠した”のではなく、
“守った”のだ。
婚活では、
「正直でいなきゃ」「誠実でいなきゃ」と、
自分を縛ってしまう人が多い。
けれど、本当の誠実さとは、
“自分を守ることを許せる強さ”でもある。
恋愛も結婚も、
“本音を打ち明けられる相手”に出会うまでの旅だ。
信頼が育っていない段階で、
すべてをさらけ出すのは、
自分を大切にしていない証拠でもある。
「隠すこと」は、悪いことではない。
それを“どう扱うか”が大切なのだ。
職業という言葉の裏には、
その人の“時間の使い方”が詰まっている。
仕事にどんな想いで向き合っているか、
どんな人間関係を築いてきたか。
そこにこそ、“生き方の本質”がある。
だから、
相手があなたの職業をどう受け取るかで、
その人の価値観が見える。
「仕事がどうこう」よりも、
「その仕事をどう誇っているか」。
その違いを理解してくれる人と出会えたら、
それが本当の“安心”だ。
婚活の目的は、
“条件の合う人”を探すことではなく、
“価値観の合う人”を見つけること。
だからこそ、
職業を隠して始まる出会いも、
そこから誠実に育てていけるなら、
それは“正しい出会い”だと思う。
大切なのは、
“最初に何を話したか”ではなく、
“最後までどんな関係を築けたか”。
もし今、
「職業を隠してしまった」と悩んでいるなら、
どうか自分を責めないでほしい。
あなたは、
“嘘をついた人”ではなく、
“慎重に愛そうとした人”だ。
誰かに誤解されたくないと思う気持ちは、
愛する力の裏返しだ。
だから、
それを恥じる必要はない。
信頼できる人に出会えたとき、
「実はね」と打ち明ければいい。
その瞬間、
“隠していたこと”は、“誠実に変わる”。
婚活で職業を隠すこと――
それは、逃げではなく、選択だ。
そして、
あなたの心を守るための、静かな強さだ。
大切なのは、
“いつかちゃんと話そう”という気持ちを忘れないこと。
その誠実ささえあれば、
どんな始まり方をしても、
愛はちゃんと育っていく。
肩書きではなく、
人として見てくれる人と出会うために。
今日もあなたは、
自分の人生を、丁寧に生きている。
それが、何よりの誠実さだ。