婚活をしていると、誰もが一度は考える。
「相手の会社名って、聞いてもいいのかな?」
マッチングアプリでも、相談所でも、
相手の職業欄には「会社員」「メーカー勤務」「IT関係」などと書かれている。
でも、そこからもう少し踏み込みたくなる。
「どんな会社なんだろう」「安定しているのかな」「どんな働き方をしているんだろう」
そう思うのは、当然のことだ。
だって婚活は、「恋愛」だけではなく「生活」を見据える出会いだから。
けれどその一方で、
“聞きづらさ”や“聞かれたときの違和感”を感じた経験がある人も多い。
なぜ「会社名を聞く」という小さな行為が、
こんなにも心をざわつかせるのだろう。
会社名を聞く理由は、決してひとつではない。
そこには、「相手のことをもっと知りたい」という純粋な好奇心もあれば、
「安心したい」という防衛本能もある。
婚活は、信頼がまだ育っていない状態から始まる。
だからこそ、相手がどんな環境で生きているのかを知ることで、
「この人は大丈夫だ」と思いたくなる。
それは、“相手を疑っている”のではなく、
“自分を守りたい”という心の自然な反応だ。
けれど、その「安心したい」という気持ちは、
ときに“条件で相手を見る目”へとすり替わってしまうことがある。
「有名企業なら安心」
「安定した仕事なら誠実そう」
確かに、会社名を知ると、その人を理解した気になる。
でも、肩書きや勤務先は“その人を構成する一部分”に過ぎない。
本当の誠実さや価値観は、名刺のロゴの中には存在しない。
人は、“所属”で安心しようとする生き物だ。
けれど、婚活の本質は“誰に所属しているか”ではなく、
“どんな心を持っているか”を見極めることにある。
ある女性(35歳)は、
相談所で出会った男性との初デートで会社名を尋ねるかどうか、
ずっと悩んでいたという。
「気になるけど、聞いたらがめつく見える気がして…。
でも、聞かないと何も分からないし、怖いんです。」
彼女は悩んだ末、こう聞いてみた。
「お仕事、どんな会社なんですか?」
男性は少し驚いたように笑いながら、
「特に大きい会社じゃないけど、ITのシステム開発をしています」と答えた。
彼女はその後、自分の不安が少し軽くなったのを感じた。
「安心したんです。
ただ、“会社の名前”を聞いて安心したというより、
“ちゃんと答えてくれた”というその姿勢が嬉しかった。」
――そう、彼女が求めていたのは“情報”ではなく“信頼”だったのだ。
一方で、逆の立場に立つと、
会社名を聞かれることに戸惑う人もいる。
「婚活なのに、会社で判断されるのか」
「条件で見られている気がする」
そんな気持ちが生まれるのも無理はない。
自分の“中身”ではなく“社会的ラベル”で価値を測られるのは、誰でもつらい。
けれど本当の問題は、「聞く・聞かない」の境界線ではなく、
“どう聞くか”と“どんな気持ちで聞くか”なのだ。
「あなたの仕事の話をもっと知りたい」
という姿勢で尋ねるのか、
「相手のレベルを測りたい」
という視線で尋ねるのか。
同じ質問でも、心の温度がまったく違う。
その温度は、言葉よりも早く、相手に伝わってしまう。
婚活における“会社名”とは、
実は「信頼の測り方」を象徴している。
信頼を“情報”で積み上げる人と、
“時間”で育てる人。
前者は早く安心できるけれど、壊れやすい。
後者は時間がかかるけれど、揺るがない。
どちらが正しいわけでもない。
けれど、婚活を“人間関係”として続けていくなら、
後者のほうが穏やかに続く。
信頼は、相手を“知る”ことから始まり、
“信じて待つ”ことで育つ。
会社名を聞きたいと思う自分を、責めなくていい。
それは、あなたが慎重で、誠実な証拠だ。
ただ、その気持ちを相手に押しつけないようにすること。
「あなたの働き方、興味あります」
そう言えるやわらかさがあれば、
どんな質問も、やさしい対話に変わる。
逆に、相手に聞かれたときも、
「不快に感じた」より先に、
「相手はなぜそれを知りたかったんだろう?」と考えてみる。
そこには、相手なりの不安や誠実さが隠れているかもしれない。
婚活とは、条件のすり合わせではなく、
“安心のつくり方”を学ぶ時間だ。
相手の肩書きではなく、
話すときの目のやわらかさ、
沈黙のときの空気の穏やかさ。
そうした小さな「人となり」に目を向けるほど、
結婚という現実に近づいていく。
会社名よりも、
「今日、あなたと話せて楽しかった」
その言葉のほうが、ずっと深く心に残る。
焦らなくていい。
“会社名を聞く”ことも、
“聞かない勇気を持つ”ことも、
どちらも間違いではない。
大切なのは、
「信じるために尋ねる」のか、
「判断するために尋ねる」のか――
その違いを、ちゃんと自分でわかっていること。
婚活の目的は、
条件の一致ではなく、
“安心して本音を話せる人”と出会うこと。
その信頼の始まりは、
相手の会社名ではなく、
あなたのまなざしの中にある。