アラフォー婚活、「高望み」と言われた夜に

2025年10月27日

「もう少し現実を見たほうがいいんじゃない？」
そう言われた瞬間、心の奥で何かがひそかにしぼむ音がした。

婚活を始めて数年。真面目に向き合っているのに、うまくいかない。
「高望みしすぎ」――その言葉は、まるで努力の代わりに突きつけられるレッテルのように重い。

でも、ふと思うのだ。
“高望み”って、いったい誰の基準で決まるのだろう。
35歳を過ぎたら、理想を持つことさえ“わがまま”とされてしまうのか。

「現実を見て」と言われるたびに、心が疲れていく

婚活市場では、アラフォーという言葉が「条件」より先に語られる。
年齢という数字だけで、価値を見積もられるような感覚。
出会いの場では、プロフィールの年齢欄を見ただけで判断されることもある。

「条件を下げたほうがいい」
「年収や学歴にこだわらなければ、すぐ結婚できる」

そう助言されても、なぜか納得できない。
だって、私が求めているのは“条件”じゃなく、“心が通う誰か”だから。
それでも、いつの間にか周囲の声が頭の中で反響しはじめる。
「私、まだ現実が見えてないのかな」
「もう少し妥協すべきなのかな」

気づけば、理想を語ること自体が“痛いこと”のように感じてしまう。

でもね、“高望み”って、ただ欲張りだから生まれるわけじゃない。
むしろ、その奥には“もうこれ以上、傷つきたくない”という繊細な防衛が潜んでいる。

たとえば、
「誠実な人がいい」と言いつつ、どこかで「自分より優秀で尊敬できる人じゃないと」と条件をつけてしまう。
その裏には、「見下されたくない」「傷つけられたくない」という願いが隠れている。

あるいは、
「経済的に安定している人」と言いながら、実は「自分が頼っても大丈夫だと思える安心感」が欲しいだけかもしれない。

“高望み”とは、理想を追いかけているようで、実は“安心のかたち”を探している行為なのだ。
それを責める必要なんて、どこにもない。
あなたがそう願うのは、ただ、心がこれまでたくさんの痛みを知ってきたから。

本当に大切なのは、“条件を下げる”ことではなく、“本音を見極める”こと。

たとえば、
「年収700万以上がいい」と言ったとき、その数字の向こうにある“願い”を掘り下げてみる。
安定、誠実、余裕――それらは数字では測れない。
でも、その人が仕事に真摯であるか、自分の人生を大切にしているかなら、会話の中で確かに感じ取れる。

同じように、
「身長は175cm以上」と口にしたとき、その裏には“守られているような安心感”があるのかもしれない。
ならば、背の高さよりも“あなたを穏やかに包む優しさ”のほうが、ずっと確かな安心をくれる。

条件は、願いの翻訳にすぎない。
あなたが本当に求めているのは、数字ではなく「自分を安心して委ねられる関係」なのだ。

「理想を下げなさい」ではなく、「理想の意味を見つめ直そう」。
これが、アラフォー婚活における本質的な転機だと思う。

若い頃は、理想を掲げることが希望そのものだった。
でも、大人になった今は、“希望”よりも“現実”をどう生きるかを問われる。
そこで多くの人が、「理想か現実か」という二択に苦しむ。

けれど、本当に成熟した理想とは、“現実に根を下ろした理想”のこと。
手の届かない夢ではなく、日々の会話や沈黙の中に息づく現実的な優しさを大切にできるようになること。

たとえば、
「完璧な人」ではなく、「不器用でも誠実な人」を選べるようになったとき。
「刺激的な恋」ではなく、「穏やかな信頼」に安らぎを感じられるようになったとき。

その瞬間、あなたの“理想”は、もう誰にも「高望み」なんて言わせないほど、深く、美しいものになっている。

20代の恋は、勢いで始まり、感情で燃える。
30代の恋は、理性で探り、現実とすり合わせる。
そして40代に近づく恋は、静かに「人生をともにできる人」を見極めていく段階だ。

経験を重ねたあなたは、もう“誰かに選ばれる”ためではなく、“自分が選ぶ”段階にいる。
だからこそ、焦る必要はない。
見せかけの条件に惑わされず、自分の心が安らげる場所を探す旅に出ればいい。

愛とは、妥協ではなく、“理解”から始まる。
相手の欠点を受け入れるだけでなく、自分の弱さも差し出せる関係。
それが本当のパートナーシップだと、歳を重ねた今ならきっと分かるはず。

婚活が長引くと、「もう少し譲れば楽になるのに」と言われることがある。
でも、人生のパートナーを選ぶというのは、“楽”になるためではなく、“より誠実に生きるため”の選択だ。

「理想を持つ」ことは、何も恥ずかしいことではない。
むしろ、あなたが自分の人生を真剣に考えている証。
だからこそ、周りの声に流されず、静かに自分の心の声を聴いてほしい。

本当の“高望み”とは、現実逃避の理想を掲げることではない。
「誰かと生きることを、本気で願う」その純粋さを守り抜くことだ。

もう一度、自分に問いかけてみよう。
「私が本当に欲しいものは、どんな温もりだろう」
「誰と、どんな会話をしているときに、心がやわらかくなるだろう」

その答えが見えたとき、あなたの婚活は“探す旅”から、“選ぶ旅”へと変わる。

たとえ今はまだ独りでも、その時間は決して無駄ではない。
理想を見つめ直しながら、自分自身を深く理解していく――
それは、何よりも尊い「愛の準備期間」なのだから。