婚活サイトのプロフィール欄に「職業」という項目がある。
そこにカーソルを合わせるたび、少しだけ指が止まる。
“非正規”という言葉を入力することが、
まるで「私は安定していません」と宣言するようで、
胸の奥がざらりと痛む。

アラフォーになり、非正規で働きながら婚活を続けること。
それは、数字と現実と世間の“目”の狭間を歩くような日々だ。
年齢、収入、雇用形態。
婚活市場で“条件”として並べられる項目の中で、
自分の存在が小さく感じられることがある。

でも、本当に「安定している人」だけが
幸せになれるのだろうか。


アラフォーの非正規女性たちは、
ただ“安定していない”のではない。
社会の隙間を生きながら、
日々をしなやかに支えている人たちだ。

契約や派遣という形の中でも、
人間関係に気を配り、
与えられた仕事に責任を持ち、
自分の暮らしを支える力を持っている。
それは決して「弱さ」ではなく、「たくましさ」だ。

けれど婚活という場に立った瞬間、
その努力や誠実さが
数字で測られてしまう。
「非正規」というたった三文字の中に、
どれほどの人生の事情や覚悟が詰まっているかを、
誰も見ようとしない。


婚活の現実は、冷たい。
プロフィールを開いた瞬間に判断され、
「安定」「共働き可能」「年収」など、
条件の網の目で選別されていく。
けれど、その“条件の外側”にこそ、
本当の人間らしさがある。

非正規であることは、
経済的な不安定さを意味するかもしれない。
でもそれは、同時に「柔軟さ」と「適応力」を意味する。
変化に強く、努力を怠らず、
状況に合わせて生き抜いてきた人。
それが、非正規として働き続ける女性たちだ。

婚活で本当に必要なのは、
安定した立場ではなく、
一緒に不安を分かち合える関係を築ける人だと思う。
お金の多寡よりも、
心の温度で安心を作れる人。
それができるのは、
“現実を知っている人”の強さだ。


ある女性がいた。
契約社員として働きながら、40歳を目前に婚活をしていた。
出会いのたびに「非正規」という言葉が重くのしかかり、
時には相手の態度が変わることもあったという。
「でもね」と、彼女は少し笑って言った。
「それでも私、誇れるんです。ちゃんと自分で生きてきたから」

彼女の言葉には、静かな強さがあった。
どんな働き方でも、自分の生活を守り、
自分の責任で立ってきた人には、
言葉の奥に“生き抜いてきた時間の重み”がある。
それは、誰かの条件表には書けない輝きだ。


婚活がうまくいかないと、
「もっと条件を良くしなきゃ」と思いがちになる。
資格を取る、転職する、副業を始める…。
努力することは悪くない。
でも、その努力が「誰かに選ばれるため」になってしまうと、
心が消耗していく。

婚活の本質は、“自分を良く見せる”ことではない。
“自分を丁寧に扱う”ことだ。

非正規であることを卑下するのではなく、
「私はこの環境で、こんなふうに生きてきた」と
語れるようになること。
それが、いちばんの信頼を生む。

人は、強い人に惹かれるわけではない。
“誠実に生きてきた人”に惹かれる。
どんな形であれ、自分の人生を受け入れ、
逃げずに生きてきた人には、
穏やかで確かな魅力がある。


婚活では、「非正規=不安定」という印象が根強い。
けれど、結婚とは“安定した立場”を得ることではなく、
“お互いの不安を分け合う関係”を築くこと。

もしあなたが非正規で働きながら、
「結婚なんて無理」と感じているなら、
どうか思い出してほしい。
あなたが今も働き、生活を守っているということ。
それだけで、すでに“自立”している証だ。

婚活で語られる「理想の女性」とは、
誰かに頼らず、
それでも誰かと寄り添える人のことだ。
非正規の女性が持つ“生活感のある優しさ”や“現実を知る強さ”は、
本当は、最も結婚に向いている資質なのかもしれない。


アラフォーになれば、
若さや肩書きではなく、“人生の深さ”が魅力になる。
それは、痛みを知っている人にしか出せない温度だ。
恋愛や結婚は、その温度に惹かれる誰かと
静かに交わる瞬間から始まる。

婚活市場では“非正規”という言葉が弱点に見えるかもしれない。
でも、あなたの中にあるのは、
社会が定義できない“生き抜く力”だ。
それを誇っていい。

アラフォー非正規女性の婚活は、
遅れているのではなく、
“深まっている”のだと思う。
経験も傷も迷いも、すべてが“生きてきた証”として、
これから出会う誰かに伝わっていく。

婚活は、条件ではなく、物語でつながるもの。
あなたの物語が真実である限り、
その言葉に心を動かされる人が、
必ずどこかにいる。