婚活をしていると、
メッセージのやり取りが続いたあとに、
「一度電話で話してみませんか?」という流れになることがある。

相手の声を聞ける嬉しさもあるはずなのに、
なぜか心がざわつく。

“電話、ちょっと苦手なんです”
そう伝えるとき、どこか自分が子どもっぽく感じてしまう。

でも――その感覚は、けっして弱さではない。
むしろ、人とのつながりを丁寧に感じ取ろうとする繊細さの表れなのだ。


婚活の世界では、
「マメな連絡」や「テンポの良いやり取り」が
良い印象の条件のように語られる。

特に最近は、
LINEやマッチングアプリでのメッセージよりも、
“電話で話すと距離が縮まりやすい”という意見も多い。

けれど、電話が苦手な人にとっては、
それが大きなプレッシャーになる。

文字のやり取りなら、
言葉を選ぶ時間がある。
相手の反応を想像して、整えることもできる。

でも、電話ではそれができない。
間の取り方、声のトーン、反応の速さ――
そのすべてが“生の自分”として届いてしまう。

つまり、電話が苦手というのは、
「人と話すことが苦手」なのではなく、
「相手に自分の“温度”がそのまま伝わる怖さ」があるのだ。


婚活において電話が怖い理由のひとつは、
“関係が本格的に動き出す瞬間”だからだ。

文字でのやり取りは、まだ安全圏。
でも、声を交わすことで、
相手のリアルな存在がぐっと近づいてくる。

それは期待でもあり、
同時に“失望が生まれるかもしれない距離”でもある。

人は、心を動かすことよりも、
心を傷つけることを恐れる。

だから、電話を避けたくなるのは、
自分を守る自然な反応なのだ。


ある女性がいた。
彼女は婚活アプリで出会った男性と、
2週間ほどメッセージを続けていた。

「電話してみませんか?」と誘われたとき、
心臓が早くなったという。

“何を話せばいいんだろう”
“沈黙になったらどうしよう”

そう思いながら、勇気を出して通話ボタンを押した。

結果、会話はぎこちなく、
5分も経たずに終わってしまった。

そのあと、彼からの連絡は減っていった。

彼女は言った。
「やっぱり電話が苦手な私は、婚活に向いてないのかもしれません」

でも、私は思う。
彼女の問題は“電話が苦手”なことではなく、
“自分を責めてしまうほど真剣”なことだったのだと。


婚活は、思っている以上に“自分の弱点”を映す。

会話が苦手な人は、会話の中で。
距離が怖い人は、親密になる瞬間に。
信頼が怖い人は、相手を信じそうになる瞬間に――
心の防衛線が浮き彫りになる。

電話が苦手な人は、
その防衛線が「声」という形で現れる。

けれど、それは恥ずかしいことではない。
誰かに心を開くことを大切にしたいという、
“優しさの裏側”なのだから。


もう少し現実的な話をしよう。

婚活で電話が苦手なら、
無理に克服する必要はない。

「電話が少し緊張してしまうので、短めにお願いします」
「通話が苦手なので、まずはメッセージで少し仲良くなってから」

そう素直に伝えるだけでいい。

誠実な人は、そこに引くどころか、
むしろ“あなたの丁寧さ”を感じるはずだ。

一方で、
「そんなの面倒」と感じる相手なら、
その時点で“価値観の相性”が見えてくる。

婚活は、相手を探すだけでなく、
“自分がどう扱われたいか”を確かめる時間でもある。

だから、あなたの苦手は、
相手の誠実さを見抜く“フィルター”にもなりうる。


電話が苦手な人ほど、
会ったときの表情や言葉に、あたたかさがにじむ。

準備された言葉ではなく、
沈黙を恐れない穏やかな間合いに、
本物の優しさが宿るからだ。

“話し上手”ではなく、“聴き上手”。
“テンポの良さ”ではなく、“心の落ち着き”。

それらは、婚活の世界では派手に見えないけれど、
長く続く関係においては、何よりの強みになる。

だから、“電話が苦手”という感覚を、
「私には足りないもの」と思わないでほしい。
それは、
「私はゆっくり人と向き合いたい」という、
あなたの人間らしい誠実さの証なのだから。


婚活の電話は、
“距離を詰めるツール”ではなく、
“心の温度を確かめる手段”であってほしい。

無理に盛り上げようとしなくていい。
沈黙を恐れなくていい。
笑い声が少なくても、気まずさがあっても、
その静けさの中に“本当の自分”が滲むことがある。

婚活の目的は、
“上手に話すこと”ではなく、
“ありのままのあなたが受け入れられる関係”を見つけること。

だから、電話が苦手なあなたにこそ、
ゆっくりと深い愛を育てられる力がある。

焦らなくていい。
あなたのペースを大切にしてくれる人が、
きっと、どこかで同じように不器用に息を整えている。

その人と出会うまで、
あなたの“静かな誠実さ”を手放さないでほしい。