婚活アプリやパーティーで、
プロフィールの中でもひときわ目を引く項目――それが「年収」だ。
たった数文字の数字なのに、
その人の人生の厚みや安心感までも映すように感じてしまう。
だからこそ、多くの人がそこに無意識の期待を抱く。
“このくらいの年収なら、安定してるかも”
“自分と同じくらいなら、価値観も合いそう”
けれど、婚活の現場では時々、
この数字が“少しだけ違う”ことがある。
つまり――「年収の逆サバ」。
「逆サバ」とは、
実際の年収よりも低く書くこと。
たとえば、本当は700万円なのに「500万円」と書く。
1,000万円あるのに、「800万円」とする。
一見すると、「それならいいじゃない」と思うかもしれない。
けれど、そこには人の心の複雑な温度が隠れている。
逆サバをする人の多くは、
“自分をよく見せたい”というよりも、
“自分をちゃんと見てほしい”と思っている。
高収入であることよりも、
「お金だけで選ばれたくない」
「人として好きになってもらいたい」――
そんな願いの裏返しなのだ。
ある男性の話を聞いたことがある。
彼は30代後半で、外資系企業に勤め、年収は1,200万円。
婚活アプリでは“年収800万円”と書いていた。
理由を聞くと、彼は少し笑って言った。
「前に年収を正直に書いてたら、
会ってもすぐ“高収入ですね!”って言われて。
その瞬間、なんか違うなって思ったんです。」
彼は、“数字で好かれる違和感”に疲れていたのだ。
だからあえて“逆サバ”をすることで、
自分の内面を見てくれる人と出会いたかったという。
婚活では、“条件”がわかりやすく数値化される。
年齢、身長、学歴、年収。
でも、人の魅力は本来、
そんな数値で測れるものではない。
どんなに年収が高くても、
思いやりがなければ心は冷える。
どんなに年収が低くても、
誠実な人の隣は不思議と温かい。
それでも、私たちは“数字”という目安にすがる。
なぜなら、それが「安心」をくれるからだ。
でも、その安心は、
“相手を信じる勇気”を置き換えたものなのかもしれない。
婚活で年収を逆サバする人を、
「不誠実」と感じる人もいるだろう。
確かに、プロフィールに事実と異なることを書くのは、
信頼を損ねるリスクがある。
けれど、もしその“逆サバ”が、
「見栄」ではなく「防御」から来るものだとしたら、
そこにあるのは“誠実のかたち”なのかもしれない。
たとえば――
高収入だからこそ、“条件”で選ばれる怖さ。
成功しているほど、“本当の自分”を見てもらえない虚しさ。
それらを経験してきた人ほど、
数字を少し隠すことで“人間としての距離”を守ろうとする。
つまり、逆サバとは、
「試す」ためではなく、「守る」ための行為。
それを知ると、
“誠実”という言葉の意味が少し変わって見えてくる。
誠実とは、“何も隠さないこと”ではない。
“嘘をつかないこと”でも、単なる“正直さ”でもない。
本当の誠実とは、
「相手の信頼を裏切らないように生きよう」とする意志のことだ。
だから、年収を逆サバしたとしても、
相手をだまそうとしたのではなく、
“本音でつながりたい”という想いがあるなら、
それはある種の「正直さ」でもある。
もちろん、相手に本当の数字を伝えるタイミングは大切だ。
関係が深まるほど、隠しごとが“重さ”になる。
けれど、その誠実さを“数字の正確さ”だけで測ってしまうと、
婚活の本質を見失ってしまう。
年収の「サバ読み」には、二つの方向がある。
一つは、自分を大きく見せる“見栄”。
もう一つは、自分を守る“逆サバ”。
見栄のサバは、相手を欺く。
逆サバは、相手に希望を託す。
どちらも“本音”が隠れている。
大切なのは、
そのサバの裏にある“動機”を見抜く目を持つことだ。
「どうしてその数字にしたのか」――
その理由にこそ、人間の深さがある。
もしあなたが婚活で相手の“年収の逆サバ”を知ったとしても、
それを裏切りだと決めつけないでほしい。
むしろ、
「なぜその数字にしたのか」を聞く勇気を持ってほしい。
その問いかけの中で、
相手が自分の過去や考えを素直に話してくれるなら、
そこには信頼の芽がある。
婚活とは、
「正しい数字」を見つける活動ではなく、
「誠実に話せる関係」を育てる活動だ。
年収という数字は、
生活の現実を支える一つの要素でしかない。
けれど、人の心を支えるのは、
数字ではなく“温度”だ。
婚活をしていると、
どうしても“条件”ばかりに目が行く。
でも、本当に幸せをつくるのは、
条件の整った相手ではなく、
不安や迷いを一緒に乗り越えられる相手だ。
だから、プロフィールに書かれた数字が少し違っていたとしても、
その人が“嘘を隠す人”なのか、
“心を守る人”なのか――
見極める目を育てていきたい。
婚活で年収を逆サバする人。
それは、
「お金よりも、信頼でつながりたい」という
小さな誠実の表現なのかもしれない。
数字よりも温度を信じること。
条件よりも人柄を見つめること。
婚活の本当の幸せは、
「いくら稼ぐか」ではなく、
「どんな想いで生きているか」に宿る。
だから、焦らなくていい。
条件を比べるより、心の深さを感じてほしい。
“誠実さ”は、プロフィールの数字には書けない。
でも、言葉の端々や、沈黙の中に、
ちゃんと滲んでいる。