婚活用の服を選ぶとき、意外に時間がかかるのが「靴」だ。
特にパンプスの色。黒か、ベージュか、ネイビーか。
ひとつの選択なのに、その裏に小さな“心の揺れ”が潜んでいる。
「無難な方がいいのかな」
「でも、地味に見られたくない」
「少しだけ印象に残る色を選びたいけれど、やりすぎは怖い」
そんなふうに、鏡の前で何度もパンプスを履き替える自分。
それはただのファッションの迷いではなく、
“どう見られたいか”と“どうありたいか”の間で揺れている心の反映なのだ。
婚活では「見た目も大切」と誰もが口を揃える。
それはたしかに事実だ。
けれど、“見た目を整える”というのは、
本当は“自分の気持ちを整える”ことでもある。
たとえば、黒のパンプス。
落ち着いた印象を与え、知的で控えめな雰囲気をつくる。
けれど、それを選ぶときの心には、
「目立ちたくない」「失敗したくない」という慎重さがある。
同時に、「きちんと見られたい」「誠実に見られたい」という願いも。
黒には、自分を守りたい気持ちと、信頼されたい思いが同居している。
一方で、ベージュのパンプスを選ぶ人は、
柔らかさや清潔感を大切にしている。
どんな服にもなじみやすく、穏やかで優しい印象を与える。
でも、そこには「嫌われたくない」「角を立てたくない」という、
少し控えめな自分の姿もある。
ベージュは“受け入れられるための色”なのだ。
そして、ピンクベージュやアイボリーを手に取る人は、
どこかで“愛されたい”という願いを、
そっと自分でも感じているかもしれない。
それは決して悪いことではない。
むしろ、誰かに優しく見られたいと思えることは、
人を愛そうとする力の芽でもある。
一方で、深いネイビーやグレー、ボルドーを選ぶ人もいる。
「少し違う私を見てほしい」と願うように。
周囲とは少し違う個性を持ちながら、
どこか大人の余裕を感じさせるその色には、
“自分をちゃんと知ってほしい”という静かな主張がある。
婚活という場では、時に「正解」が求められがちだ。
“清潔感のある服装”“好印象のメイク”“上品なパンプス”――。
けれど、その「正解」を追い続けているうちに、
自分の輪郭が少しずつ薄れていく人もいる。
それは、外見を整えようとするたびに、
“誰のための印象づくりなのか”を見失ってしまうから。
ある女性が言っていた。
「ベージュのパンプスを履いても、なんだか気分が上がらないんです」
理由を聞くと、彼女は静かに笑って言った。
「本当は、もう少し強い色が好きなんです。
でも、婚活には向かないかなと思って…」
彼女が次のデートで、深いワインレッドのパンプスを履いたとき、
歩き方まで変わっていた。
姿勢がまっすぐになり、笑顔が少し増えていた。
相手の男性から「なんだか今日、雰囲気が違いますね」と言われて、
「そうですか?」と照れながら答える彼女の目は、
どこか自信に満ちていた。
彼女が変えたのは、靴の色だけ。
けれど、それは“自分に嘘をつかない”という
小さな勇気の表れだった。
パンプスの色は、ただの見た目の印象ではない。
自分が「どんな気持ちで恋をしたいか」を映す鏡のようなものだ。
黒で守りたいときもあれば、ベージュで寄り添いたいときもある。
そして、赤で挑みたい日もある。
どれも正しい。
ただ、その日の自分の心と合っているかが大切なのだ。
恋も同じ。
「好かれるための自分」でいようとすると、
どこかで息苦しくなる。
けれど、「自分が好きでいられる自分」でいたら、
出会いの場も、自然と温度が変わっていく。
婚活をしていると、服やメイク、話し方まで、
“評価される自分”を演じることが求められるように感じる。
でも、そこで忘れてはいけないのは、
「自分を好きでいられる装い」こそが、
一番の魅力を引き出すということだ。
その人の靴には、心の色が滲む。
黒でも、ベージュでも、ピンクでも。
大切なのは、“あなたらしい温度”がそこにあること。
たとえ少し地味に見えても、
あなたの歩くその一歩が誇らしく感じられるなら、
そのパンプスは、もう十分に美しい。
焦らなくていい。
どんな色を選んでも、それは今のあなたを映している。
だから、迷ったときはこう考えてほしい。
「この靴を履いた私で、どんな一日を歩きたいだろう」と。
その答えの先に、
あなたの“恋の色”が、きっと見えてくる。