「いい人なんだけど、好きになれない」
婚活を続けていると、何度となくこの言葉に行き当たる。
相手は誠実で、条件も申し分なく、話していて嫌な感じもしない。
それなのに、心が動かない。

「私、感情が枯れてしまったのかな」と、そんな不安を抱く夜がある。
だが、恋愛感情が“湧かない”という現象には、単なる「ときめき不足」以上の意味が潜んでいる。


恋愛感情とは、心の奥で鳴る微かな音のようなものだ。
誰かに出会った瞬間、心のどこかで「何かが響く」。
けれど婚活を重ねるうちに、その音が聞こえにくくなる人がいる。

原因のひとつは、“自分を守るための静けさ”である。
何度も傷つき、期待しては落胆し、希望を持つたびに裏切られた経験があると、
心は自然と「これ以上、揺れたくない」と防衛する。
そうして、恋愛の入り口でブレーキをかけるようになるのだ。

それは壊れているのではなく、正常な反応である。
人は、恐れを知らないときしか無防備に恋に落ちない。
痛みを知った者は、慎重になる。
だから、婚活の途中で恋愛感情が湧かないというのは、
心が疲れているサインであり、同時に“まだ自分を守れる力がある”という証拠でもある。


ただ、その防衛は時に、幸せの入口をも閉ざしてしまう。
「好きになれない」理由が、
本当に“相手が違うから”なのか、
それとも“もう傷つきたくないから”なのか。
この二つを見極めることが、婚活後期の大切な課題になる。

たとえば、相手に欠点がないのに恋愛感情が湧かないとき。
多くの場合、私たちは“好きになること”そのものを怖がっている。
なぜなら、好きになった瞬間に「失う可能性」が生まれるからだ。
期待が芽生えると、裏切られる恐怖も芽生える。
だから、“好きにならないようにする”ことで、自分を守っている。

恋愛感情の不在は、感情の欠如ではなく、感情の制御である。
人は意識せずとも、自分を守るために感情の蛇口を閉めてしまうことがあるのだ。


婚活の現場では、“冷静な判断”が重視される。
年齢、年収、価値観、生活スタイル。
一つひとつを吟味し、「合う」「合わない」を理性的に仕分ける。
それは成熟した選び方のように見えるが、
一方で“心の動きを抑え込む作業”でもある。

恋愛感情とは、論理ではなく感受の領域だ。
合理的な選択と、感情の高鳴りは、ときに相反する。
条件で選ぼうとすればするほど、心は沈黙する。
恋愛感情が湧かないのは、感情の衰えではなく、
「感情を動かす余白がなくなっている」だけかもしれない。


もうひとつ、静かな真実がある。
恋愛感情は、“与えられるもの”ではなく、“育っていくもの”でもあるということ。
婚活では「最初にときめかなければ意味がない」と思いがちだが、
人の心はもっとゆっくりと、複雑なリズムで動く。

最初は「なんとも思わなかった」人に、
あとから温かな感情が芽生えることもある。
むしろ、大人の恋愛はそのほうが多い。

“湧かない”からといって、その人との未来を閉ざすのは早計だ。
恋愛感情が湧かないときほど、
「この静けさの中に、何があるのか」を見つめてみてほしい。
静けさの奥には、心の防衛だけでなく、
まだ形を持たない“安心への希求”が隠れている。


たとえば、あなたが「この人といて落ち着く」と感じるなら、
それはもう一つの感情の芽である。
恋の始まりは必ずしも“ドキドキ”からではない。
安心、尊敬、共感──そうした穏やかな情感の中から、
やがて恋が育つこともある。

「恋愛感情が湧かない=相性が悪い」と即断する必要はない。
それは、感情の始まり方が“あなたらしい速度”ではないだけのこと。
恋における“時間の流れ方”は、人それぞれ違う。
あなたの心は、ただ慎重で、静かで、誠実なのだ。


大切なのは、恋愛感情が“湧くかどうか”よりも、
“湧かないときに自分が何を感じているか”を知ることである。

退屈なのか、安心なのか。
興味がないのか、怖いのか。
「湧かない」という言葉の奥には、いくつもの感情が混ざり合っている。

それを丁寧にほどいていくことで、
“恋ができない自分”という誤解が、“心を守っている自分”という理解に変わっていく。
そしてその理解が深まると、心は少しずつ安心を取り戻す。
安心を取り戻した心にだけ、新しい恋は訪れる。


婚活の本当のゴールは、「誰かと結婚すること」ではなく、
「自分の心と再びつながること」かもしれない。
誰かを好きになる前に、まず自分の感情を信じ直す。
「私は感じる力を失っていない」と、静かに思い出す。

恋愛感情が湧かない夜があってもいい。
それは、あなたが壊れているからではなく、
まだ“慎重に幸せを選び取ろうとしている”からだ。

心が再び動く瞬間は、焦らなくても必ずやってくる。
そのとき、あなたの中の静けさが、
“これが本当の安心だ”と教えてくれる。